第3章 ep3 遭遇
「対、何戦を観たの?」
「中国だよ、フルセットしてたね」
「中国か〜、あの、〇〇選手が中国と相性いいんだよね、バックアタックが良く効いて」
「そうそう。あの人のはスピードもパワーもあるしね」
閉店時間20分前の本屋で雑誌を片手に、会話の花を咲かす2人。
「あの〇〇さんのツーも良かったよ、タイミングばっちしでさ」
「あ〜、あの人は本当によく見てるよね!ここでやるのって時に、絶対決めるし」
「決めるっていえば、あのレフトの〇〇さんも、小さいけどブロックアウト上手でさ」
「うんうん、わかる。体幹とか真っ直ぐだし、私あの人みたいになりたいなぁって思ってたんだっ」
お互い共通するバレーの話をしているりこの顔は、文字通りキラキラしていて、誰が見ても、バレーが好きなんだと思わせる。
その表情一つ一つは、及川にジュニアチーム時代の彼女を思い出させた。
(この笑顔が、見たかったんだよなぁ・・・)
ふと、何故かそんなことをぼんやりと思っていると我に返った。
「そ、そういえばさ、りこはここではバレーやらないの?女バレもあるんだけど」
話題を帰ると、りこも我に返ったように一時停止し、そして、俯きがちに言葉を紡いだ。
「うん・・・・・・もう、バレーはやらないの・・・」
「え?」
なんで、と言葉を続けようとしたが、彼女は雑誌を置き、スッと及川の隣を過ぎて店を出ていった。
お疲れ様、とだけ言葉を残して。
つい先程まで楽しくバレーの話をしていたのに、
つい先程まで彼女の甘い匂いがあったのに、
つい先程まで、
ここで彼女が笑ってくれていたのに・・・・・・、
「なんで・・・・・・」
及川の呟きを聞く者は誰もいなかった・・・。