第2章 *始まりの鐘*
「ユイ……ユイ…」
揺れ動く馬車の中、私はルイの声で我に返った。
「ユイ……大丈夫?」
(緊張してる……なんて言えない)
「あ、うん…ごめんね、ちょっと考え事しちゃって」
「……そう」
ルイはそう言って私の手を繋いでくれる。
(私が緊張してるの分かってて何も言わないでくれてるんだよね…)
ルイのふとした心遣いに胸が暖かくなる。
繋いだ手を少し強く握ると、ルイも無言で私の手を強く握ってくれた。
「ルイ様、ユイ様、ご到着しました」
(いよいよだ…)
「ユイ」
馬車から降りようとした時、ふと後ろからルイに呼び止められた。
そして、触れるだけの優しいキス……
「…っ…ルイっ…!」
突然のキスに頰がかあっと赤くなる。
そんな私を見て、ルイは優しい笑みを浮かべて言った。
「おまじない」
「え……?」
「ユイの緊張がほぐれるおまじない」
「ルイ……」
(ルイもきっと緊張してるのに……)
ルイはいつも通りの素ぶりを見せるけど
「行こう…?」
先に馬車から降りたルイが私に手を差し伸べる。
(ルイに貰ってばかりじゃダメだ…)
意を決した私は差し伸べられた方の腕を馬車の中まで引き込み、外の人に見られないようにルイにキスをした。
「……っ…」
ルイの綺麗な瞳が大きく見開かれる。
「私からもおまじないだよ。ルイが緊張しなくなるおまじない」
ルイは少し照れたように見えたけど、すぐにいつもの優しい笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。