第5章 *君が笑わない世界*
〜ユイside〜
「それでは私はこれで失礼致します」
「ありがとうございます」
今日も、いつものようにメイドさんが食事を持ってきてくれた。
その様子から、私が婚約を解消したいとルイに伝えたことはまだ噂にすらなっていないのだろう。
「はぁ…」
書類にサインをしていた手を止め、机の上に置かれたティーカップを手に取り、口を付けると柔らかなアールグレイティーの香りが広がり、少しだけ心を落ち着かせてくれた。
(公務は休憩にして食事にしよう…ここで食事がとれるのもあと少しなんだし…)
そう思い、まだ温かく湯気が立っているビーフストロガノフを口に運ぶ。
「ん……?」
いつもとは違う、でも食べた事のあるような感じがした。
(この味どこかで……?あ──!)
アランだ…!
アランには以前にも同じ料理を作ってもらったことがあり、その時と全く同じ味がした。
アランの作る料理はどれも隠し味が入っていて他の人が作ったものとはまた違う美味しさがある。
(アラン…忙しいのに作ってくれたんだ…)
それだけじゃない。
「ずっとここで公務ばかりしていても退屈でしょ?これでも読んで息抜きしてね」
レオはそう言って本を一冊くれた。
「綺麗な花が咲いたんだ。ユイちゃんに似合うと思って」
ロベールさんはそんな手紙が添えられた美しい白い花をくれた。
他にも私の部屋は沢山の人からもらった贈り物で溢れていた。
皆、直接私に会うことが出来ないから扉の前で優しく話しかけて「置いていくね」と言ってくれたり、メイドさんに頼んで贈り物をくれたりしていた。
私は今からプリンセスという立場でありながら国を捨てる。どんな理由があろうとも、それが大切な人を守りたいからだとしても、その事実は変わらない。
それでも…今は自惚れていい…かな…
──私はこの国でプリンセスになれなんだ、って