第5章 *君が笑わない世界*
頬から温かい涙が零れ落ちる。
「…っ…やだ、私いつの間にこんなに涙脆くなったんだろう…」
濡れたまぶたを擦り、涙をふき取る。
コツコツコツ……
少し遠の方から規則正しい足音が聞こえる。
その足音はやがて部屋の前で止まった。
コンコン──
「ユイ、今少しいい?ドアは開けなくて大丈夫だから」
「あ…っ…うん、大丈夫」
慌てて返事をすると、ルイは優しく語り出す。
「この前の話だけど、ごめん。俺はまだどうすればいいか分からない」
(それが当たり前…だよね)
「でも明日の正午、国民を集めて話したいことがある。姿は見えないかもしれないけど声だけでも聞いておいてほしい。今日はそれを伝えに来たんだ」
「あ…っ…」
ルイはそれだけいうと直ぐに去っていった。
明日私が急死したと国民に伝えるつもりなのだろう。
(明日…か。思ったよりも早かったな…明日で私のプリンセス生活は終わる。自分が言い出したのに…まだここに居たいなんてダメだな、私)
次に再び流れ出した涙を、私は拭わなかった。