第5章 *君が笑わない世界*
「ルイ様、到着いたしました」
「ありがとう」
シュタインへの訪問を終え、ウィスタリアへ帰ってきた俺を出迎えたのは少し取り乱した様子のジルだった。
「ルイ様、つい先程リアム王子がお亡くなりになられました」
「…!……そう…」
正直、心底恐ろしかった。
元々医者から長くはないと聞いていた。俺が恐ろいと思ったのはリアム王子が亡くなったことではない。
これで、ユイが怖がらなくて済むと少しでも安心した自分が恐ろしかった。
「葬儀はあちらの国で行いたいと思っています。一国の王子の葬儀を他国でやる訳にはいきませんので」
「あぁ、分かった」
元々もう長くは生きられないと聞いた時からリアム王子の国に使いを送ったが、あちらの国王から「罪人ならば王子など関係ない。そちらの牢に入れていて構わない」と言われていた。
(刺激してしまうかもしれないけど…一応ユイには伝えておかないと)
残りの公務が終わったらユイにこの事を伝えに行こう、そう思い、城に足を踏み入れた時だった。
「ルイ様ー!」
大階段を小走りで掛けてくるユーリの姿。
なぜ今日はこんなにも騒がしいのか。ユーリもリアム王子が亡くなったことを伝えに来たと思った。
「リアム王子の事なら──
もう知っている。そう言おうとしたが、ユーリは俺の言葉を遮って話し始めた。普段執事として完璧な立ち振る舞いを見せるユーリが俺の言葉を遮ったことはない。何か重要なことなのだろう。
「ユイ様が…っ…今日、遅くなってもいいから公務が終わったら部屋に来てほしいって…」
「え…?」
予想外の言葉だった。今まで話しかけても返事はなかったユイが、自分から来て欲しいと言うなんて。
(まさか…リアム王子の事を知っている…?でもそれを知ってどうして俺を呼び出すんだ…?)
行ってみないと、聞いてみないと分からない。
ここで考えるのは止めよう。
「ルイ様…?大丈夫ですか…?」
「あ…ごめん…大丈夫」
「なら良いですけど…では、俺は失礼しますね」
俺が言うことでもないのは分かってますけど、ユイ様をお願いします
ユーリはそれだけ行って仕事に戻っていった。