第23章 水色の思い出 (逆ハー)
「おい、貴様もう離れろ。十分だろう」
ぱしゃんと水音がしたかと思うと、背後からバージルの声がした。
「も嫌なら嫌と言え。先程からずっと抱きつかれているだろうが」
「え…んと…」
口ごもると、不意に首筋に肌の感触を感じびくりとする。
「っ!」
「お?」
ただ驚いただけとは少し違う反応に、正面のダンテが瞬いた。
軽く背中に腕を回しての顔を覗き込む。
瞬時に察知したバージルはもう片方の腕を背後からウエストに手を回し、首に触れた手を滑らせた。
愉快そうに言う。
「どうした?」
「やうっ!くすぐった…」
ダンテは思わずバージルを見た。そこにはの反応に満足そうに笑む彼が。
手を滑らせる度には震え、身をよじり嫌がる。ダンテはにやりとし、耳元にささやいた。
「…首、弱ぇのか」
「近っ…ダンテ近!」
「近くねぇと面白くねぇだろ」
「面白さはいらないよっ!うあ…ちょっと!」
ダンテにいきりたつと、後ろのバージルが指先で首筋を軽く引っ掻いた。
逃れようとすると前に崩れ、ダンテに捕まる。
「残念だったなー逃げ場なくて」
にやにやと言うダンテに悪びれる様子は微塵もない。水着の肩紐に手をかけられ、はびくりと動きを止めた。
背後のバージルも、ホルターネックの紐の結び目に手をかける。
「水着、よく似合ってんな」
「閻魔刀で破きたいくらいだ」
「それはアンタだけ」
「そうか?なら貴様はどうしたい」
「嫌だっつってるとこを脱げって命令して嫌々脱いでるのを視姦だな」
「ふっ…俺とさほど変わらん」
とても嫌な単語が飛び交っている気がする。は硬直した。
誰ですか、この悪魔。
文字通り、この悪魔。
「まー冗談だ。ここじゃやんねぇから心配すんな」
ころっと声色を変え朗らかにダンテは言うが、言われたからといってとても安心する気にはなれない。
「ここでは、な」
バージルの声と何とも言えない表情が記憶に刻みつけられる。
どん底に落とされとどめを刺された気がした。
強制と叫声。
彼らとの初めての海は、にとって一生記憶から離れないものになったのだった。
2008/08/10