第23章 水色の思い出 (逆ハー)
「おねーさん」
声をかけられたのは、水中から目を離してぼんやりと水平線を眺めていた時だった。
目を向けると知らない男が3人。ダンテよりも日に焼け小麦色をした肌をしていて、一様に皆不自然なほど笑みを浮かべていた。
不安になって後ずさる。
「何ですか?」
「何って暇そうにしてたからさ。遊ばない?」
「……連れ、が…いるので」
「俺達ここの地元民でさ、いい場所知ってんだよ。ここよりもずっと綺麗なとこ」
怖い。目がぎらぎらと何かを狙っていて、恐怖心を煽る。
言葉が上手く紡げず、それに苛立ち更に一歩下がった。
「行きません」
「あれ、怖がっちゃった?大丈夫大丈夫。あっちに女の子もいるからさ、心配しないで」
「行きませ…」
「そんな事言わずに行こうぜ。あそこ知らないなんて勿体無いって」
しつこい。恐怖は苛立ちを燻らせ、は逃げ出したい衝動に駆られる。
しかしここは海の中。走ったって、地面を歩くよりも遅い。
「何で逃げんだよ。一人だからと思って親切に誘ってやってんじゃん。な?」
「だから、連れが…っ」
「見に行くだけだから。あんたがきれーなおねーさんだから誘うんだぜ」
「やっ…!」
ばしゃんと水が跳ねる。男が身体を寄せる。
肩に腕を回されかけ、思わず身を竦めた。
瞬間。
「おい」
「あん?…だっあだだだだ!」
「クソ汚ぇ手で触んじゃねぇよ」
後ろから回された腕に見覚えが。
聞いた事もないくらい殺気が籠った声に、聞き覚えが。
「命拾いしたな、貴様」
次いで男の前に現れたのは、氷の視線で相手を刺し睨むバージル。
水がきらりと光り、は目を見張る。水中でバージルは、幻影剣を男の腹に突きつけていた。
その剣先から、海水がムラを作るように赤く染まる。
ぎょっとした。
脅しではなく、僅かに刺している。
「場所がここでなければ刻んでいる所だ」
「……っ!」
流石に彼らでも、その言葉が本当か嘘かくらいの区別はついたらしい。ゆっくりと後退すると、急いで逃げて行った。