第8章 あんず飴
それを横目に、バージルはあんず飴を覆っている包みをがさがさと取った。
も包みを取り、ひと舐めする。
「美味いか?」
「うん」
口に広がる甘い飴の味に小さな怒りはほどけ、上機嫌では答える。
「バージルも食べてみたら…」
言って顔を上げたその瞬間。
不意に目の前が陰り、バージルの綺麗な端正な顔が近付き。
口付けではなかった。
舌で唇を、まるで飴でも舐めるようにぺろりと。
「…俺には甘過ぎる」
「………っ! じゃあ返して!」
「俺にくれたものだろう。やらん」
は驚きよりも羞恥が勝って頬を紅潮させた。
まさかあのバージルが、こんな人混みの中であんな事をするなんて。
思いもよらなくて。
祭で受かれているとしか思えない。
彼は人前でこういう事をするのを何よりも嫌うのに。
バージルが歩き出す。
も一拍遅れてついていく。
ゆったりと流れる時間。穏やかな空気。
悪い気はしない。
すると不意に手を捕まれ、は顔を上げた。
バージルが横目でこちらを見る。確かめるように。
「どうしたの?」
聞くと、バージルは微笑んでの耳にささやいた。
「はぐれるな」
それから最後に。
浴衣似合っているぞ、と。
暖かく呟いた言葉が喧騒に消えた。
2007/08/26