第37章 一人と孤独
「行ってらっしゃい」
バージルの仕事。
彼の弟と同じく悪魔退治。
かつては悪魔の力を切に渇望していた彼も、今はもう落ち着いて。悪魔の力を借りずに自分の力で強くなろうと、言うなれば同胞を斬るような仕事をしていた。
しかし、その中にはまだ戸惑い躊躇い狼狽があって。
悪魔の力に惹かれるような
人間の脆弱さに嫌気が射すようなところがあって。
バージルはいつも、仕事に行く前に触れてきてくれる。
寂しがるように苦笑気味に微笑み、頬を撫で唇を撫で、そっと顔を近づける。
そうして感じる温もりは、頭に痺れるように響く。彼の存在が深く刻みつけられる。
彼もそうなのだろうか。そうだったら、いい。
温もりが離れてじっと見つめれば、そこには澄み渡るアイスブルーの瞳。溶けそうだ。
端正すぎる顔立ちにはいつもぞくりと来る。
愛しさが溢れて止まらない。
バージルはそれを知っているの?
「…あまりそう見つめるな。行きたくなくなる」
声にハッとした。
バージルが頭を撫でる。手付きは驚くほど優しくて、気を緩めれば涙が出そう。
そのバージルには、苦い気持ちが広がっていた。
いつもいつも決まって出迎えてくれる。どんな気持ちなのだろう。
自分はまだ人間をあまり理解していなくて、その気持ちは多分認識しきれていない。
ただ、もし自分がの立場だったらと考えると。
胸が痛んだ。
一人残される孤独感。
人間は「一人」ではなく「孤独」を恐れるのだと、そう確信するまでにどのくらい時間をかけた事か。
はずっとずっと、それに耐えてきたのだろう。
何も言わず。
笑顔で見送り、帰れば「お帰りなさい」と。