第36章 小さな親切 (ダンテ子供化ギャグ)
ふとダンテは視線の先に、一人の若い女が道に困っているのを見かけた。
手元の紙と辺りとを見比べては途方に暮れたように見回して、時折紙をひっくり返したりするが無駄のよう。
もちろん無視するわけもなく、近づいて行って声をかけた。
この辺りはダンテにとっては庭のようなものだ。答えられる自信がある。
ほっとした顔をした彼女が持つ地図には、案の定ダンテがよく知る場所に印がつけられていて。
方向を指で示しながら、なるべく分かりやすいように説明してやった。
すると女は不意に鞄をあさり、「私が働いてるお店の新作なんです。よかったらどうぞ」と微笑んでクッキーをダンテに差しだした。
もちろん貰わないわけにはいかない。ダンテは有り難く頂戴し、彼女に別れを告げた。
再び歩き出し、ご機嫌でクッキーを眺める。
―――いい事ってするもんだよな。儲けたー。
ここにはバージルの目もない。もいない。
ダンテはにやりと笑うと、ここぞとばかりに袋を開けた。
途端、バターの甘い香りが広がる。
―――1個くらい、わかんねえよな…
綺麗に閉めれば、ダンテが食べたなんてまずわからないだろう。
二人はクッキーの事を知らないのだ。ここで全部食べたって、わかりはしない。
ひとつだけ。
ひとつだけ、ダンテはクッキーを口に入れた。
その背後で、若い女が唇の端を吊り上げているとも知らずに。
静かな事務所内。
とバージルの二人は、ダンテが仕事から帰るのを待っていた。
彼の腕からすれば、もうそろそろ帰ってくる時間。
その上今日は外食なのだ。恐らくダッシュで帰ってくる。
バージルはソファでいつものように読書。
は暇つぶしに、ダンテが全く片付けない雑誌をぱらぱらとめくっていた。