第35章 数
唇にそのぬくもりを受けたは、やや驚いた顔で離れていくバージルを見返していた。
バージルは、短く触れ合うような口付けを好む。そして顔を離すと、まるで顔色を伺うようにじっと見つめてくる。
はおかしそうに笑った。
「どうしたの?」
屈託のない笑顔。
それにバージルの鼓動が跳ねると同時に、わずかな疑問。
引っ掻いたように残るそれを、バージルはためらわず口に出した。
「お前は…いくら唐突に唇を重ねても、全く恥ずかしがったりしないのだな」
何を突然。は今度こそ驚く。
からかわれたのかと思ったが、バージルの表情は至って真剣で、それが何だかこの質問に不釣り合いな気がした。
視線をそらす。
何でもないように、髪を手で撫でる。
「まあね。慣れたから」
「慣れた?」
「うん。バージルと会う前にも、それなりにしたし」
ビリッとバージルの眉が震えた。
顔がしかめられる。
「それなりだと…?」
「え、何で驚くのよ。だってあっちから来るんだもん。私だってしたいと思う時もあるし、仕方ないでしょ」
「…………」
バージルは黙り込んでを睨んだ。正確には、を通して男達を。
は、こういう事を何でも言ってくる。
相手の事を考えずに、ただ事実を述べてくる。
そのせいでバージルがどんな思いになるのか、彼女は知っているのだろうか。嫉妬で心臓が燃え上がるような気分になるのを、知っているのだろうか。