第34章 波紋
気圧されて黙り込む。
涙で濡れた顔を見られるのが嫌で、俯こうとしたが。
細く長い指に、顎を掴まれた。
彼の目を見詰めるのに、躊躇いはない。
「行ってくれるか?」
「………行きたい…」
新しい雫が溢れる。
頬を濡らす。
指が、の顔を上に向かせる。
「行きたい……っ」
唐突に重なる唇。
数度交わり、息継ぎに開いたの口に舌が入り込む。
絡まる舌はやがて水音を奏で始め、久しぶりのその暖かさは、まるで波紋のようにの身体に染み込んだ。
「はふ…ぅっ バ…ジル……っ」
バージルから漏れるわずかな息に身体が震えた。
何て温かい。何て優しい。何て愛しい。
服を掻き抱いて必死に引き寄せる。
まるで砂漠に水が沁みるように、順繰りに記憶に色がついて。
その横で、最後の涙が一筋、頬を伝って床に落ちた。
2007/3/14