第28章 捕縛者
いつの間にか俯いていた顔を上げると、存外近くにバージルの顔があった。
身が竦む。氷のような目で正面から見つめられて、動かなくなる。
頬に彼の冷たい手がするりと滑った。
「お前の身を案じて言っているだけだ。そう怖がるな」
「…………」
「人間の男は野蛮すぎる。表面は取り繕っていても、裏では何を考えているのか知れたものではない」
「そ、んな…」
「その男がお前を好いていないと言い切れるか? お前を襲わないとでも?」
そんな事を言ったら、きりがない。思ったけれど、彼はそう思っていないようだった。
バージルは黙り込んだ様子を見て満足そうに微笑むと、とどめを刺すようにゆっくりと唇を重ねた。
繊細な動きで2、3度啄む。柔らかい唇の感触を受けながら、私はされるがまま。
まるで麻酔のように身体を駆ける何かの名前を知りたくてたまらなかった。
ややして顔を離したバージルは、僅かに舌なめずりをする。
まるで楽しくてたまらないというように。
どこか中毒者が狂ったように。
薄く笑顔。
「もう、外に出るな」
私は、これから。
「外に出ればどんな危険があるか知れないだろう。ずっと家にいろ」
これから。
「お前は俺が守る」
彼の家にある空き部屋が、綺麗に掃除されていた。
2008/3/9