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私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で



……どういうことだ?確かに、乱れはあったが彼女の魔力を感じた途端消えてしまった……。

相手の情報を測れないということは、その者の持つ魔力に劣るということを意味する。

いや、そんなまさか……。

一度、彼女から手を引く。

目の前の彼女が、私よりも強い魔力を持っているというのか?

「如何なさいました?」

一人考え混んでいると、医者のヌウェルに声を掛けられた。

「あ、いや……特にこれといって可笑しなところはない、魔力の乱れも整ったが……。」

ふと、彼女を見ると少し驚いた表情をしている。


「あ、あの……。」

部屋に小さく響く鈴の音……いや、それが彼女の声だとすぐに理解した。
理解したが、彼女を見詰めたまま動けない。

「ほう!これはこれは、流石はハイデス様ですな。……御機嫌麗しゅうフロイライン?」

一瞬呆気に取られるハイデスを他所に、彼女に声を駆けるヌウェルは人の良さそうな笑顔を浮かべてニコニコしている。

「私の言葉は分かりますかな?」

「あ、はい……。」

「それはよう御座いました。ハイデス様のお力ですよ、御嬢様。」

ハイデスの混乱を他所に一人で話を進めていくヌウェル。
治す様なことは行っていないハイデスが、何故突然彼女が言葉を解るようになったのか理解が出来ていなかった。
本当に混乱していただけなのか……?

頭上に疑問符が飛び交う中、華やかな笑顔を浮かべる彼女に頭を下げられ我に返った。

「あの、有難う御座います。」

「、あぁ……私は当たり前の事をしたまでだよ。私の名前はハイデス……ハイデス・ファン・クロヴィス。この家の主だ。君の名前を聞いても……?」

「私は……アンリ、そう、アンリです。ハイデス様。」

少し考えた様子で答える彼女の名前を聞けてほっとするが、ファーストネームだけということに少々疑問を持ったが、今は言いたくないのかもしれない。

「有難う、アンリ。色々と聞きたいこともあるが、今夜はもう遅い。それに疲れているだろう?この部屋を使ってくれ。後でメイドを一人連れてくるから何かあれば頼るといい。私も……こんな夜更けに乙女の部屋へ居座るのは気が引けるからね。」

笑って見せると、小さな笑みを返してくれた。

まだ、今の彼女を質問攻めにするのはあまり宜しくない。明日、彼女が目覚めたらゆっくり話せばいい。
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