第5章 闇夜の調べ
ぼんやりと開いた瞼は何だかとても重たくて、ついでに身体も何だか気怠かった。
ほんの少しひんやりしている空気を吸い込むと、眠気と共にぼやけていた視界がゆっくりと輪郭を取り戻すのが見えた。窓から射すのは湖からの光だ。
少し眩しいなと思って目を細めると、そこに丁度人影があることに気がつく。
誰だろう、なんて私が考えるのは一瞬だった。
だって、間違える筈もない。すらりとした立ち姿に、揺れる長い黒髪。
私が目覚めたことに気が付いたのか、ゆっくりとこちらを振り返ったことで、丁度私に当たっていた日の光が遮られた。でも、ルシスさんの影に入った私はその表情がよく見えなくて、やっぱり目を細めてしまった。
「気が付きましたか?」
何でルシスさんがいるのだろう、とか、ぼんやりとまだふわふわしている頭で考えた。
優しく私の頭を撫でる大きな手が、そのまま顔にかかった髪を耳元へとずらした。
ちょっとくすぐったい。
「おや、まだ寝惚けていますね?フフフ、かわいらしい……少々失礼致しますよ。」
急に両手が頬に添えられたかと思うと、ぐっと距離が近付いた。
あれ、なんて思っていれば、よく見えなくなったそこで私の少し熱くなった額に何かが触れた。私は、おでこをくっ付けられてるのだと気が付くのに少し時間がかかった。
「ふむ……大丈夫そうですね。」
「あ、えっと……ルシス、さん?」
多分、魔力を見るだとか、そういう為の行為なんだろうという予想は出来るのだが、今までは手を添えるだとか、その程度のものであった。
あまりの距離の近さに私はドキドキして、目を泳がせる。
「安心した、と言っているのですよ。何もなく良かった。」