第3章 2 暖かな黒の中で
「…何、ハイデス、お前……そんなことも彼女に伝えていないと言うのですか?」
ぐっと、息を飲む音が聞こえた気がした。意味の分かっていない私をおいてけぼりにして、二人が何を話しているのか分からないが、この沈黙が少し、重い。
恐る恐る見たハイデスさんの表情は困ったような、それでいて真剣な顔をしていた。
「はぁ……まったく、仕方ないですね…。」
おろおろと二人の様子を伺っていた、そんな私を見かねてかルシスさんが溜め息と共に話を切り出した。
それは、私にはまるで不思議な物語みたいな、何だか現実身のない、けれど紛れもない、私自身の話だった。
「えっと、あの……その、昔話に出てくる、てんにょ??っていうのが、私…なんですか?」
「いえ、貴女は新しく呼び寄せられた天女です。彼の時代の天女はまた別の人物ですよ。なので、当時の話が貴女にどれ程当てはまるかは分かりません。ですが、少なからず同じ様な役割として呼び出された可能性が高いので、国として保護…もしくは、隔離という判断を下されるでしょう。」
「っ、ルシス……言葉を選んでくれ。彼女を恐がらせたくはない。その、まだ色んな事に慣れていないんだ。もう少し気持ちの整理がついてからそういうことは私から話そうと思っていたのにそれを…!」
「分かっていますよ。でも、結局のところお前からでは言い出せなかったのでしょう?ならば良い機会だと思うべきです。このまま黙っているのも彼女の為にはなりません。知ることは彼女自身が身を護る上で何よりも大切なのですから。」
「だが…っ!」
「いいえ、お前は少し悠長過ぎる。彼女を探しているのはこの国だけではない。ハッキリいいますが、今こうして彼女を隠せていられてることを有り難く思いなさい。」
あぁ、また二人が言い争っている。
何の話?
国として保護?もしくは隔離…?
一体何の話をしてるんだろう?
いや、分かっている。分かっているのだけれどまだそれを私の頭が受け入れようとしていない。
ぼんやりと二人を見ながら、何だか少し、一人になりたくなった。