第3章 2 暖かな黒の中で
腰に腕が回って、ルシスさんのひんやりとした指が頬に触れた。
真っ黒な瞳に吸い込まれてしまいそうだった。
「あ、あのっ、ごめんなさい…私、そんなつもりじゃ…!」
言い終わると同時に、ふわりと体が浮く。
か、解放された?と思ったらどうやら違うみたい。
「ルシス、頼むからいい加減にしてくれないか……」
「ハ、ハイデスさん…」
浮いたと思ったのは、正確には持ち上げられたらしい。ルシスさんから私を引き離したハイデスさんは後ろから守るように私を抱き締めている。
「フフフ、そうムキになるんじゃありません。…アンリ、その男も身を挺して貴女を守るでしょうが、万能ではない。気を付けなさい……あぁ、貴女がまだ私を知りたいと言ってくれるのであればいつでも仰ってください。歓迎致しますよ。」
本気なのか冗談なのか分からないその言葉に戸惑いながらも、やっぱりそんなに怖い人じゃないみたいだと、どこか不思議で掴めないこの人の事を知りたいなと思ってしまう。
「何でだろ…昨日、あんなことがあった筈なのに…私、全然不安じゃないんです。」
本当に、何でだろう。少し前までは凄く不安だった筈。何が、とか、どうして?というよりももっと抽象的で漠然とした不安。身体がふわふわとして、どこかへ流されてしまうような恐怖感がどこかにあった。
それが、気が付いたら不思議となくなっている。
「ルシスさんも、勿論ハイデスさんも…私は、やっぱりもっと知りたいです。私は、何も知らないから……教えてください、お二人の事を。」
「アンリ…勿論、君が望むなら私の全てをさらけ出していい。」
「全く私の言ったことを聞かない子ですねぇ……少なくとも、私にその様なことを本気で言ってくる人は初めてですよ。これも天女の才ですかね。」
ハイデスさんは抱き締める力を強くして、ルシスさんは呆れたように笑っている。
でも何か、引っ掛かる単語があったのを聞き逃さなかった。
「え…てんにょ、?なんですか、それ?」