第9章 散歩
「散歩行こうぜ!」
秋晴れの気持ちいい日。俺は昼食の片付けを終えたに言った。
は少し嫌そうな顔をして振り向いた。
「えぇー?なぁに急に…」
「嫌なのかよ」
「だって寒いもん…」
唇をとがらせる。片付けを終えて手を洗い、拭く。
俺はその手をつかむと、問答無用で引っ張った。
「お前少しは外出た方がいいぜ。こんないい天気なのによ。ほら、歩け」
「ええー…」
は渋っていたが、手を引かれながら歩き出した。
家を出、スラム街を歩く。
小さい歩幅。俺はそれにさりげなく合わせ。
どこへ行こうとは言わなかったが、行く場所は決めていた。
仕事帰りにブラついていて見つけた、が喜びそうな場所。こんな汚ぇスラム街なんかじゃなく。
「どこ行くのー?」
俺の手をしっかり握りながら、見上げて聞いてくる。
ヤベ。かわいい。
「内緒」
「えー」
「行ってからのお楽しみだ。きっと喜ぶぜ」
それを聞いて、の顔は期待に染まった。
「ん 楽しみにしとく」
心なしか歩く歩調が軽くなり、握った手を握り返して来た。
――ちっせぇ手だな…
改めて思う。
包めば隠れてしまう手。でも確かに温かくて、その温かさを守りたくなるのだ。
小さな身体も全て、俺の身体で包みこめるミニサイズ。
可愛くて可愛くて、抱き締めたくなる笑顔。
それを感じる時間が大好きだった。