第5章 嘘
「貴方、嫌いよ」
そう言われた瞬間、嘘が。
一人の自分を偽り騙し詐称していた嘘が。
ぶち壊された。
「俺は好きだけどな」
そう返すとあんたは微笑んで。
「ありがた迷惑」
「そりゃよかった」
「ありがたもつかないわよ」
「上等だ」
彼女の手を引くと、予想していた拒絶は来なかった。
まるで俺の心を見透かすように品定めするように探るように、じっと見つめてきている。
言っとくが負ける気は全くねぇ。目を向けられるなら俺だって向けてやる。
そっちが戸惑うくらい見つめてやるよ。
後で視線外しても遅いからな。
手を引く。縮まる距離。
視線は直接直線で混じり合い、互いに強い警戒心。
ダンテはその細い身体をゆっくりと抱き締めた。
視線を捉えたまま。唇が触れ合う直前の距離で、二人は未だ瞳に瞳を映し。
視線と共に吐息が混じった。
吐息と共に手が重なった。
「好きだぜ」
「私は嘘をつく人は嫌いよ」
「厳しいな」
「当たり前じゃない」
「どんな小さな嘘でも駄目か?」
「人を守る嘘はいいわ」
「んな事言って俺がそれを見分けられると思ってんのか」
「全然」
「はッ。だろうと思ったぜ」
これは警告。甘んじて受けよう。
俺を嘘だと叩きつけてくれたのは、お前だけだった。
だいすきなのはおまえだけ。
嘘じゃない。
20070624