第53章 精算 (初代ダンテ)
尾けられている、と直感で理解した。
足音は一定の距離でついてくる。歩調を緩めるか突然走るかして惑わせようかとも思ったが、今日の夕飯買い出し帰りの為両手には一杯の荷物。抱えて逃げるにはリスクが大きい。
ダンテの仕事柄といつもその手伝いをさせられている経験から、度胸だけは多少ついている自信はあった。
このくらいなら何とか対処は出来るだろう。事務所もそう遠くはないし、いざとなれば走って逃げられる。
帰るの遅れるなと思いながら短くため息をつくと、くるりと振り返って言った。
「私と話したいならもっとスマートにお願い出来ない?」
相手は驚いたらしい。立ち止まって、一瞬戸惑うように揺れた。
遠目の上帽子で顔が隠れていて、誰かはわからない。しかし男であるのは確かだ。
様子見で少しその場に留まってみるも、相手は何も行動を起こさなかった。
馬鹿馬鹿しい。後ろからこっそり尾けるしかできないような奴かと、呆れたような視線を送る。
「………」
無言で荷物を持ち直した。何もしてこないならこれ以上こちらから何かする必要も無い。
さっさと帰ろうと、少し後退り背を向けようとした瞬間。
「そして兎は檻の中」
「……っ!」
突然後ろから身体を羽交い締めにされた。
ばさ、と荷物が手から落ちる。ああ、卵入ってたのに割れたかも。
「弱く見られたもんだな」
「…卑怯な手を…っ」
二人組だったのだと気付いて顔をしかめた。
目の前にいるのが一人だからといって単独だとは限らないと、ダンテとの仕事で知っていたはずなのに。
ああ、もう。私の馬鹿、と己を罵らずにはいられない。