第51章 時間制限付きのある日
「…………」
暗闇に慣れた目を細めながらも捉えた姿。目の前には彼一人しかいなくて、やっつけられた犯人が倒れているわけでもなくて、それが意味する事は。
頬を濡らした涙が、ぱたりと床に落ちて。
理解をする前に、私の身体はがばっと抱きしめられる。
「………ダン…テ…?」
「ははっ。お前があんまりいい格好してるからいじめてやった」
「…ダンテ……」
「はぁ…マジでぞくぞくしたぜ。目隠しされて涙流しながら俺を呼ぶなんてなぁ!こんな状況じゃなきゃ味わえねぇもんな。いやー俺すげえ。よくあそこで自制した偉いっ」
「ダン………」
「あ、爆弾はもう止めてあって犯人はフルボッコ済みな。めでたしめでたし。不安もなくなったし、もう少し続きを……ぐほァッッ!!!」
腹を思いっきり爪先でえぐって蹴飛ばしてやった。
前屈みで腹を押さえ唸るダンテの目の前に、ふらつきながらも私は仁王立ちになる。
「絶交……」
「は?おいお前いくらなんでもえぐり飛ばすのはやりすぎじゃ…」
「絶交を言い渡します!しばらく私に話しかけんな馬鹿ダンテ!馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!」
「そんな連呼しなくても…」
「するわ馬鹿!最低!最悪だよひどいよ…!私…すっごい怖かっ…」
ほっとしたせいかだんだん涙混じりになって、止まっていた涙がまた溢れる。
今度は目の前の景色が滲んで、ダンテがダンテとわからなくなって。
ぎゅっと目をつぶると、ぱたぱたと僅かな音。
すると、ふわりと身体が浮いた。
「!」
目を開ける。目の前にダンテの顔。
あぐらをかいたダンテの上に座らされて、その憎たらしいほど綺麗な顔を睨みつける。
「…そんな顔するとまた襲うぞ」
「…っ」
平手くらわそうとした手が、動いた瞬間ぱしりと掴まれた。不敵に笑んだ瞳が近づいて、反射的に目を閉じると、頬を滑る涙をダンテの唇が掬う。
「あのクソ野郎にやられてると思ったかよ。お前に触んのは俺だけだって前に言ったろ」
だからいらねぇ心配すんなと呟かれて。
ダンテの身体に身を預けながら、私は目の前にある彼の大きな手を思いっきりつねってやった。
2009/08/16