第50章 境目
「今度俺んち来いよ。お前が欲しがってたゲーム手に入れたんだぜ」
ダンテが不意に言った言葉に私はぱっと彼を見た。
その瞬間目に飛び込む、人懐っこい笑顔を浮かべた端正な顔。
ダンテとは男友達の中でもダントツで仲が良い。家が近い事もあって、夜まで遊んだりもする。
そんな時はいつも帰りはダンテが送ってくれて、その気遣いがこそばゆかった。
「えーうそ!いいなーずるいー!今日行く今日!」
「って片付けてねーぞ部屋」
「ダンテの部屋汚いって評判だから今更気にしなくていいよ。急に邪魔するお詫びに片付け手伝ってあげるー。だから行く!」
「誰だ汚ぇなんて言った奴。機能的に物が配備されていると言え」
そう言って決めた約束。一旦別れて夕方にまた待ち合わせする事にした。
「行ってきまーす」
夜更かしする気満々で親に外出を告げる。
ちょっと時間は早いが、ダンテの家に押しかけて驚かせてやるつもりだった。
靴を履いて鞄を持ち、鏡で服装のチェック。よし、大丈夫。
玄関のドアを押して開けると。
「よう」
門の前にダンテがいた。
「えっなんでいんの!」
「お前の事だから早く来ておどかすつもりだったろ。だからだよ」
ダンテは笑って言う。対する私は膨れっ面。
「つまんない!ダンテなんか排水溝に落っちゃえ」
「そしたらお前が助けてくれんだろ?」
「マンホールの蓋被せて帰るっ」
ひでぇ、と笑いながら言ったダンテは楽しそうで。まあいいか、と私も表情を緩める。
他愛もない話が続いた。
今日の天気とか、この間観たドラマとか、擦れ違ったサラリーマンとか、友達の事とか、漫画の新刊の事、映画の事、旅行の事、ご飯の事、好き嫌いの事、朝のラッシュアワーの事。
ダンテの家に着いて部屋に上がっても尚話は尽きる事がない。
ダンテは意外に聞き上手で話上手だから会話が続くのだ。反応もいちいち素直で面白くて。
更に格好良くて顔立ちなんか最高で運動神経抜群で。
神様はなんて不公平、と思う。