第49章 光 (初代ダンテ)
そういえば夕飯はどうしただろうか。夕飯作りは当番制で、今日は彼の番なのだが。
見たところテーブルに準備はしていないし、ずっと寝ていて出来なかったかもしれない。
キッチンに確認に行こうと立ち上がる。手をするりとダンテから離した瞬間、不意に腕を掴まれた。
「!」
「…帰ってたのか」
振り向いた私の目に映ったのは、寝ぼけ眼のダンテ。
眉をひそめて視界を整え、それでも私の腕から離れない暖かい手。
起きぬけの低い声が鼓膜に響いて、私は僅かに震えた息をついた。
「ごめん。起こした?」
「いや。…寝過ぎた」
欠伸を噛み殺すような間があって、私は腕を掴む手に自分の手を重ねる。
「寝てていいよ」
「…飯、作ってないだろう。悪いな」
「私が作るから平気。出来たら呼ぶから寝てて」
疲れてるんだから、と呟くと。
暗がりの中ダンテは私をじっと見つめて離さなかった。
窓から差す月明かりに銀の髪が縁取られる。
それに見惚れて、ゆっくりと腕が引かれた事に私は気づかなくて。
ダンテのもう片方の腕が腰に回されて、はっとした。
「…………」
声には出さないものの、拒むなら今だと隙をくれる彼。
その優しさが身を切るように身体中を巡って、私は静かに息を吐く。
瞬きさえ、躊躇われる。
どう拒めというのだろう。
視線も外してくれないくせに。掴む力も緩めてくれないくせに。
拒む事を唆されながら、私は拒めない。
そんな時、ダンテはいつも薄く笑うのだ。
腰をぐっと引かれる。ダンテの肩に手をつく私。
極力話さない彼。言葉はまるで飾りだとでもいうように、空気で伝わる感情。
手が伸ばされて髪をすかれた。優しく引き寄せられる。
私には、その緩慢な動きすら彼の計算なのではないかと思う時がしばしばあった。
諦めたように目を閉じると。ふ、と笑ったような気配がして。
ゆっくりと触れ合う唇。
吐息だけがただ熱くて、身の内の感情が溶ける。
一瞬で伝わる温度。髪に触れる手も腰に触れる手もただただ優しくて、泣きそうになった。
「…飯、よろしく」
離れた唇が言葉を紡いで、私はうっすら目を開ける。
ダンテは目を細めて笑っていた。
「怪我しないか見ててやるから」
2009/07/26