第34章 空き地に咲く花
朝、ふと目が覚める。ゆっくりと瞳を開き目の焦点を合わせれば、天井が映る。
窓から差し込む光は芯を持ち強く、日が昇ってから随分時間が経ったのだと容易に想像がついた。
隣からすうすうと聴こえる寝息に目を向ければダンテがいる。銀糸の髪が重力に傾き、暑いからと何も着ていない上半身は布団からはみ出ていた。
「いくらなんでも風邪ひくよ…」
昼間は暑くても朝はそれなりに冷える。は布団をダンテの肩までかけてやり、ベッドを降りた。
ダンテは起きるのが遅い。
普段から遅いが、昨夜は仕事があり帰ってくるなりベッドに倒れ込んだ。今日は殊更遅いだろう。
のんびりと朝食を作り始める。いつもなら、朝食が出来上がる頃にダンテが目覚めるのだが、遅くなりそうなら先に食べようかとふと思った。
別に必ず一緒に食べると決まりがあるわけでもないし、待っていたら待っていたで「先に食べてりゃいいのに」と申し訳ない気持ちにさせてしまいそう。
以前似たような事があって、ダンテは苦笑しながらその台詞を言った。
あんな顔は見たくなかったしさせたくもなかった。
先に食べてしまおうと思いつつも心の底ではダンテがもうすぐ起きてくるんじゃないかという気持ちを捨て切れず、結局のんびり作った朝食。
ダンテは起きて来ない。まあ無理する事もないんだし、と一人コーヒーに口をつけて。
その瞬間。
「………っ!」
ばたあんとドアが開く音と騒がしい足音。びっくりして見てみれば、ダンテが寝起きの状態で手すりから身を乗り出していた。
「……おはよ」
悪魔と戦っても乱れない息が少し乱れている。髪も所々寝癖。手で撫でつけてもいない。
そんな彼は少し急くように口を開いた。