第33章 雨
空は曇天だった。
重たく立ち込めて今にも泣き出しそうな雲。
ダンテはそれをぼんやりと眺めた。
雨か。雨はろくな思い出がねぇな。
土砂降りの中で剣を交えた片割れの事を思い出して、再び記憶の片隅に追い遣る。
雨は嫌いだ。
全てを洗い流すくせして肝心な苦い記憶は残す。
あの時の冷たさと息遣いと剣が交わる音と。
同じ顔と翻る青と貫く銀と。
忘れたくても忘れられない。
忘れようとも忘れたくない。
気持ちが重くなる。ダンテは舌打ちをした。
その時、遠くからぱたぱたと走ってくる音。
足音で誰なのかわかる。それでなくとも、走ってまで俺に近付こうなんて奴は他に悪魔くらいしかいない。
駄目だ。
彼女にこんな顔は見せられない。
駄目だ。
思い、少し俯いて。
深呼吸をひとつ。暗闇を吐き出すように、長く息を吐いた。
「雨降りそうだねー!大丈夫かな…」
明るい声。
こんな嫌な自分を隠すのは慣れている。大丈夫。
「もう少ししたら降るだろ。その前に帰るぞ」
まだ自分の表情に自信が持てなくて、視線は合わさずに言う。
手を差し出すと小さな手が乗っかってきて、それにほっとした。
握り返す。強く。
の小さな歩調に合わせて、ゆっくりと足を進めるダンテ。
少しして、は聞いてきた。
「ダンテは雨好き?」
ひやり。
一瞬、さっきまでの心の内を見られていたのかと心臓が冷える。
しかし彼女の様子を見る限りそうでもなく、ただ単に聞いただけのようだった。
「……嫌いだな」
に嘘はつきたくない。本音。
「どうして?」
「嫌な思い出がある。それに俺の一張羅が濡れる」
まぎらわすための付け足し。嘘ではない。