第32章 汚れた手に身を預け
ニヒルな笑み。今日も絶好調。
私は行ってらっしゃいと声をかけ、ダンテは手をひらひらさせながらドアから出て行った。
人間に危害を加える悪魔を退治する仕事。
人間に危害を加えているのは必ずしも悪魔だけという事はないのに。
人間は、誰かを悪者にしたがり悪者を廃除したがる。
人間には人間の世界があるように、悪魔には悪魔の世界があるはず。
互いが干渉し互いを敵だと見なすなら、それもまた道理。
人間であり悪魔であるダンテが悪魔を殺す事は、言うなれば同族を殺す事。
人間が人間を殺すのと似た境遇。
まがりなりにも負の命を奪う仕事。
ダンテは幾つもの悪魔の血で数限りなく際限なく汚れているのだろう。
その汚れは悪魔側からは破壊者に見え、人間側からは救世主に見え。
それが人間の勝手な解釈だと承知の上で、ダンテを汚れているなんて思った事はないけれど。
ならば、その手に身を預ける私は。
ダンテは約束通り、その曲が終わる前に帰ってきた。
室内で流れている曲を、屋外からぴったりに歌い合わせて。
2007/12/28