第32章 汚れた手に身を預け
電話のベルがけたたましく鳴る。
デスクに足を乗せて、ジュークボックスから流れる爆音にリズムよく身体を揺らしていたダンテは、そのベルの音までもが音楽だというように一切反応しなかった。
私も受話器を取ろうとしない。
取って欲しい時は、ダンテが名前を呼んでくる。
そのままベルは音を響かせ。
ずっと鳴り止まないそれに少しだけ気の毒さを感じた時。
ジュークボックスからの爆音の1曲が終わり、2曲目が始まるドラム音に合わせて、ダンテが足を持ち上げ勢いよく落とした。
そうしてやっと、衝撃で受話器が飛んで。
ダンテの手におさまる。
「Devil May Cry」
唄うような常套句。
どうやら仕事の依頼らしく、数回だるそうな会話を交わすとダンテは受話器を投げた。
慣れたもので、最低限必要な事以外は聞かないのだ。
依頼人の名と報酬と場所だけ聞ければそれだけで。
「仕事?」
「あぁ。楽勝だからすぐ戻る」
ダンテは最近小さな仕事もよく受けるようになった。
それはおそらく私という居候がいるからで、お金が要るからだと思うけど。
「この曲が終わるまでに戻って来てやるよ」
「見栄を張るのはやめてよね」
「見栄じゃねーさ。この曲は案外長くて7、8分あるんだぜ」
言いながらダンテは片手でコートを羽織り、羽織りながらデスクに乱暴に置いてある双銃のもとへ寄り、通り抜けざまに双銃を片手でかすめ取り、隣に立て掛けてあった剣を爪先で跳ね上げ、コートを羽織り終えた手で双銃を確実に背中のホルスターに納め、片手で落ちて来た剣を受け取り、背中に納めた。
「あんな低級相手に7、8分なんざ俺にとっちゃ永遠と同じだ」