第29章 お気に入りの曲
「もっと…」
「ん?」
小さく言うと、ダンテが近くに寄ってきてくれる。
それに勇気付けられて、更に。
「もっと私の話、聞いて欲しい。音楽だけじゃなくて…」
言ってみて後悔。何だかすごくすごく些細な事なのではないか。
それなのに怒るなんて何だか馬鹿みたい。言わなきゃよかったかもしれない。
ダンテは、しばし黙り込み。
自分がしてしまった事を思い返して、そうに言わせてしまった心当たりを探して。
俯いてしまったにそっと触れ。
「……ごめんな」
優しく言った。
は、怒るべきか笑うべきか泣くべきかわからなくなった。
素直にダンテが謝った事が何だか腹立たしいようでいて、迷惑をかけてしまったかもしれないと何だか泣きたくなって。
ただ、彼が愛しくなり。
触れたくて触れたくて、抱きつく。
「…お出かけしたい」
「ああ」
「お話したい」
「ああ」
「たくさん触ってたくさん笑ってたくさん一緒にいたい」
そう思うのはわがまま?
貴方の興味を引くものに嫉妬してしまう気持ちは汚れていますか?
いつも側にいたくてたまらないのに。
いつも話していたくてたまらないのに。
遠慮して、そのくせ嫉妬して、うまくいかない。
ダンテは。
ダンテは、の髪を優しく撫でて。
「俺もだ」
呟く。
バージルはその二人の様子を見て息をつく。
全く手間のかかる二人だ。すれ違っているのかただ噛み合っていないだけなのかわからないが、想い合っているくせにいつも小さな喧嘩じみた事をする。
――それを見せられるこっちの身にもなってほしいものだな…。
バージルはそっと、その場から離れた。
20070513