第28章 契約成立
二人は互いに銃を突きつけていた。
片方の女は満身創痍。
片方の男は無傷。
その距離5メートルは、には随分と遠く感じる。
乾いた唇を僅かに開いて。
「………怪我をしたくないなら、早くここから去れ」
「そういうアンタがズタボロなんだけど。大丈夫かよ?」
おどけた調子で緊張感の欠片もなく両手を広げた彼は、ダンテといった。
真っ赤な真っ赤な皮のコートが目を引いてやまない。
「何度も言わせないで。早く、目の前から、消えて」
はっきりと含み聴かせるように言っても全くの無駄というもの。
ああもうこっちは立っているのすら辛いっていうのに。倒れるなんてそんな事、プライドが許さないのよ。
「だから何度も言ってんだろ。俺は相棒を探してて、あんたが気に入ったから一緒に来てくれって」
ダンテは先程から困ったように笑っていたが、銃口は寸分違わずの心臓を狙っていた。
対する彼女は銃の重さに手が耐えられず震えている。
命を握られる感覚。
「私は相棒なんてものいらない」
「それ抜きにしたってお前そのままじゃ死ぬだろ」
「誰がこんなに怪我させたと思ってる」
「だって抵抗するから」
どんな思考回路だ、と怒鳴りたかった。
息を吸った瞬間くらりと目眩がした。
「ほら。もうフラフラじゃん」
笑いを含んだ声。
腹が立つ。
「だ、れが…」
ゆらりと傾く視界。
「やっと倒れたかよ。…アンタの命、俺が貰った」
下ろされる鋼の銃口。
最初から私を撃つ気などなかったのだと、この時ようやく気付いた。
2007/12/04