第22章 春眠
そっと、頬を包み込む。
それだけで眩暈がする。
顔を近づけて、の香りがふわりと舞って。
このまま死んだらきっと幸せになるだろうなと思った。
起こさないように。
やるなら長くはできない。息が詰まれば、は目を覚ましてしまうだろう。
いつも帰りを待ってくれているのは知っていた。
だからこそ、こんな時くらい起こさずに寝かせてやりたくて。
深く求めたい気持ちを抑え、そっと。
一瞬だけ。
唇を重ねて。
温かさがじわりと滲んだと思ったら、すぐに空気に奪われた。
それに腹立たしさを感じつつも、胸の内には幸福感。
が起きた様子はない。
ダンテはほっと息をついた。
――まぁ、起きても面白かったけどな…。
はからかい甲斐があるから飽きないのだ。
慌てる様子が可愛くて調子にのって、いつも拗ねられる。
そのまましばらく髪をそっと撫でて、幸せそうに眠る様子を眺めていると。
仕事の疲れもあるのだろう。ダンテにも眠気が襲ってきて。
――やべ…眠い…
目をこするが効果はない。
床に座り込み、ソファに上半身を預けた。
目の前にはの顔。
顔を横たえれば、手が見えて。
手をちょんとつつくとぴくりと動いて、ダンテはわずかに笑った。
まあ、いいか。
いつも頑張ってくれているのかわりに食事でも作ろうかと思ったが。
このまま眠ってもいい気がして、ダンテも目を閉じる。
柔らかな春の空気が眠りに落ちるのを手助けして。
二人が目覚めたのは、陽が落ちてからだった。
2007/04/09