第21章 笑顔
ダンテは目を見張っていた。
それを変わらない微笑みで見つめながら、は思う。
このダンテは、誰なのだろう。
今のダンテ?
お母さんがまだ生きていた頃のダンテ?
それとも、亡くなった後の……
「母さん…?」
今度は声に出して、再び尋ねて来た。
子供のようにも聞こえたし、大人のようにも。
にとってはどちらでもよかった。
どちらでも、ダンテに変わりはない。
だからそっと、驚いた顔に寄せて。
「おやすみなさい」
囁く。
ダンテはそれを聞いて一瞬くしゃりと顔を歪め、また泣くのかと思われた。
が、押し隠すように目をぎゅっと閉じ。
顔を横に向け、の身体に触れて。
はそれに応えるように、再びダンテの頭を撫で、髪をすいた。
あんな過去を持つダンテだから。
子供の時に、一瞬で母親を奪われたダンテだから。
きっといつも戦っているのだろう。
この生活が、いつ壊れるかわからない。
いつ、大切な人がいなくなってしまうかわからない。
だからこそ、何の変哲もない今が大事なのだと知っている。
同時に恐怖と戦いながら。
私はここにいるから。いつでも呼んで。
不安になったら、側に来て
手を繋ごう。
は、まるで命綱を握るようにぎゅっと離さないダンテの手を、優しく握り返した。
2007/03/22