第21章 笑顔
「なー」
「………」
「なーなー」
「………」
「なーなーなー」
ソファの端に、ダンテのうらめしそうな顔が半分。
床にしゃがみこんでいる彼の視線は、座っているより少し低い。
は軽く息をついて、見上げるダンテと目を合わせた。
さっきからずっとこの調子だ。
は大切な書類を書かないといけなくて、正直ダンテに手が回らない状態。
その状態がまだ半日しか経っていないのに、それだけでダンテは何度も何度もの名を呼んでくる。
構えよ、と唇をとがらせる。
「ごめんね、ダンテ。これが終わったら…」
「んな事言ったって、もうずっと話してくんねえじゃん。つまんねーよー」
まるで子供だ。
随分大きな子供だと、は笑った。
「もう…仕方ないなあ」
ずっとにらめっこしていた書類を、少しテーブルの端に遠ざける。
確かに、ずっと頭と手を働かせていたせいで疲れていた。
手は痛いし、腰も痛いし。
何が仕方ないだよ?と不思議そうにを見るダンテ。
彼に笑いかけるとは少し座っている位置を直し、空いた隣をぱんぱんと叩いた。
「おいで」
その一言で、先程までの表情が嘘のようにダンテの顔がぱっと輝く。
犬だったら多分、尻尾は千切れんばかりに振られていただろう。ソファを身軽に飛び越えると、隣に擦り寄って来た。
――あったかいなぁ…
肩に腕を回してくるダンテのぬくもりにほっとして、いつの間にか入っていた肩の力を抜いた。
満足そうにを抱き寄せ、その髪をゆったりとすくダンテ。
手の大きさに逞しさを感じ、優しく額に触れる唇にくすぐったさが走る。