第1章 絶体絶命
「それを食べ終わったら…」
ようやく視線を外したバージルが突然言い、はドキッとした。
───ま まさか出て行けとか……
ここまで助けておいて。
怪我もまだまだ治ってはいないし、そんな事はないだろう。
しかしハッキリと確信はできない。むしろこいつなはあり得そう。
バージルを見る。
彼は本を手に取った。
「もう一度寝るといい。体力を回復しておけ」
「…………」
思わずまじまじと見つめてしまった。身構えていただけに拍子抜け。
彼はその視線に再び顔を上げる。
「何だ」
「ううん…。出てけって言うのかと思った」
「言って欲しいのか」
「とんでもない」
バージルはいかにも呆れたように面倒くさそうに、ため息をついて顔をしかめた。
「俺は中途半端は嫌いだ。一度助けたら最後まで面倒を見る。怪我が完治するまでここにいろ」
は瞬いて、思わず吹き出した。
命令口調の優しさ。
やっぱり、いい人みたい。不器用なだけの人だ。
「ありがとう。宜しくお願いします」
にっこり笑って軽く頭を下げると、バージルはちらりとを見て本に目を落とした。
その口元はわずかに緩んでいるような。
目元はわずかに和んでいるような。
一言「早く食べろ」とそう言って、バージルはずっとの側で本のページをめくっていた。