第1章 絶体絶命
「────っ はぁっ」
荒い息遣い。
それは誰もいない広い空気に溶けて、消えて。
は、後ろの気配を痛いほど感じながら走る。
が、すでに身体は傷だらけ。
腕にある一番大きな怪我からは血が止まる事なく流れ、道路に点々と紅いシミを作っていた。
その傷を、引き裂いた自分の服で抑えて。しかし服が絞れるほど溢れた血では、もはや意味のないような気もした。
腕が熱い。
腕だけではない。身体中が熱い。
まるで焼けているようだ。体が冷たいから、血が熱く感じるんだろうか。
そんな怪我でいつものように走れるはずもなく。
身体をひきずるようにして、は走っていた。
悪魔の群れに出くわしたのはつい30分ほど前。
この辺りは魔界の気が濃く、よく悪魔が現れ、集う場所で有名だった。
しかし街へ行くにはここが近道。
ほんの数十メートルの距離だ、大丈夫だろうとタカをくくっていたのだが。
油断していた。
少し強い悪魔が出て、でも一匹だけだからと戦って…
そうしたら、同じ悪魔が面白いくらい出てきてしまった。
おそらく10はいただろう。わさわさとこちらへ向かってくる様子が思い出されて、思わず脳裏から思考を振り払う。
逃げようにも囲まれて動けず、それでも何とか戦おうとしたが数が多すぎる。
このまま戦い続けても死ぬだけ。
そう思って、もう怪我を承知で悪魔に突っ込んで、死のサークルをぬけて。
───でも…逃げてるだけで、状況はあんまり変わってない気がする……
悪魔の集う場所近くに、誰かが街を作るはずもない。
ここから街へはかなり遠く、到底走って行ける距離ではなかった。
───ああーもう!! こんな事なら通らなきゃよかったよう!
戦いの腕も悪くないし、もし悪魔が出てきても戦えると思ったのだが…とんだ計算違いだった。
本気で命が危ない。
こんな所に人がいるはずもないし、出血でクラクラするし………
頭が重い。
身体もだるい。
意識は気を抜けばすぐにでも飛びそうで、ちゃんと自分が走れているのかどうかもわからない。
何より、身体中に作られた傷が、体力と精神をひどく奪っていた。
───本気でダメかも。
まだまだやりたい事あったのに。
せっかくここまで来たのに。
そう思い、唇を噛み締めた時だった。