第2章 侵入者
はそれに必死に身を引いていたが、彼の手が身体に触れた瞬間。
「! や……っ!!」
ぱしっと小気味のいい音が響き、バージルの手が払われた。
「……!」
払って、は後悔した。
払った瞬間バージルが見せた顔。ほんの僅かにひそめられた眉は、傷ついたようにも見えた。気まずそうに俯く。
彼は、何も悪くはない。
悪くはないと、わかっているけど。
「……すまない」
「ご……め、なさ…」
バージルは黙り込むと、不愉快そうに顔を歪め、踵を返した。
「…服を持ってくる」
「待って!! 行かないで…!」
その必死な声に振り向いたバージルの目に入るのは、彼の青いコートをはおり、涙を流す血だらけの。
彼女を守ってやれなかった。
どんな理由であれ状況であれ、怪我が完治していないは、自分が守らなければならなかったのに。
「お願い…行かないで……」
「………っ」
罪悪感。
気味が悪い、不慣れな感情。重い塊がつかえたような感覚。
なんだこれは。
バージルは横目でを見つめる。
自分の情けなさに腹が立つ。
の、未だ恐怖に震えた身体。
触れたらその瞬間消えてしまいそうで。
しかしだからといって、ためらっていても遠くなってしまいそう。
どうしたらいいのかわからず迷った挙句に、バージルは一度拒絶された手を再度伸ばした。
一度だけ戸惑いためらい、触れる。
「……っ…」
わずかな微かな、彼を呼ぶ声。
拒絶は来ない。
それを悟った瞬間、バージルは息を詰めてを抱きしめていた。
「ふ…… ぅっ」
バージルの、人間にしては冷たい体温。
しかし、ぎこちないながらも強く抱きしめる手には、優しさのような温もりが込められているのが十分なほど伝わって。
張り詰めていたものがぷつんと切れるように、はぽろぽろと涙をこぼした。
温かい滴。人間の宝。
自分にはないもの。
ただその宝は、あまりに悲痛な悲哀に満ちている。
バージルはの頭を抱えて自分に押し付け、ただただ抱き締めているしか出来ない。
それしか思いつかなかった。言葉なんかでは到底足りやしない。
の柔かな髪も、傷付いた身体も、心も。
全て包み込むように。
それしか思いつかなかった。