第14章 喪失
息が詰まる。目の前がくらくらする。
なんだ、これは。
「駄目?」
駄目なわけがあるか。その言葉だけで十分だ。
嬉しくて嬉しくて、バージルは気持ちを抑えようと拳を握った。
それを聴いていたヒュウイ。見えないものの、バージルの状態が手に取るようにわかる。
わざとらしくため息をつき、一歩下がった。
「あーあ振られちまった。んじゃ、お邪魔虫は退散するぜ」
「あっヒュウイ様!」
「何だ。早く言えよ、仕事溜まってんだ」
「あの…ありがとうございました」
「………ん」
笑って、ひらひら手を振り出て行く。
はその姿をじっと見送っていた。
廊下。しばらく歩いて、十分離れてから。
ヒュウイは、にやりとしたまま呟く。
「…ま、まだ反撃の余地はあるってこった」
言葉は喧騒に消えた。
数ヵ月後。
今日は彼女が退院する日だ。食べやすい手料理でも作ろうと買い物に行っていたバージルは、事務所の鍵を開けようとした。
しかし鍵が差し込まれる前にドアが開き、目を見開く。
開いたドアの向こうに待ち侘びていた姿。
照れるような、嬉しさに満ちたような声がした。
「お帰りなさい、バージル」
「……あぁ。お帰り、」
それからバージルの家には、ルース家の当主が入り浸るようになったという。
2007/09/22 完結