第12章 舞踏
ゆらぎ
揺らぎ
波紋はやがて。
バージルはまるで思考を失われたように突っ立っていた。
ただ目の前の深紅が目に焼き付いて。焦がれて焦がれて離れなくて焼き付けて。
手配書を引き千切ろうとして手を伸ばしたが、ついと何の気無しに、彼女を狙う賞金稼ぎの名前が並ぶリストを見た。
今まで賞金稼ぎをした事は何度かあった。所持金が危なくなればあちこちの役所で手配書を見て回り、仕事をした。
いくつか見たことのある名前。大した強さではない輩。
誘われるように、下に。下に。
「No.185 ヒュウイ」
「…………」
やはり。
思考が冷める。
気持ちが覚める。
力が醒める。
伸ばした手はゆっくりと下ろされ、バージルはくるりと踵を返した。
まるで無と言っていい程、頭の中は凪いでいる。やるべき事はとうに決定していた。
来た時と同じ表情。
来た時と違うのは瞳だけ。
コツリと鋭い靴音を響かせ、何もせずに役所を出た。