第11章 揺らぎ
出かける準備はできている。
食器は帰ってから洗う事にして、はヒュウイに言った。
「では…行ってきますね」
「…………」
ヒュウイは無言で手をひらひらとやる。一応聞こえているようだ。
やはり、止めてはくれないか。
しつこく期待する自分にため息をついて、は離れた。
扉を開ける。バージルを探しに。
暗殺者をしていたのだ。人探しには自信があった。
――――――――――
バージルは役所に入ると、目で中を見渡した。
仕事といっても、今は本気で一文無しなのだ。ヘタに仕事に就いて金が入り用になるのは避けたい。
―――となると…まずは賞金稼ぎからか。
腕試しと腕慣らしも兼ねられ、成功すればすぐに金が入る。失敗は、この自分に限ってあり得ない。
バージルは早速、手配書が貼られている掲示板へ足を進めた。
青いコートがひらめく度に、人々が振り返っては感嘆のため息。もう少しマシな反応をしてみろと思いながら、掲示板の前に立つ。
ざっと目を通し、まずは賭けられている値段を見る。
一番高いものを選ぶのだ。決まっている。
すると、飛び抜けて値段が高いものがあって。
バージルはにやりとして、顔写真に目をやって。
「―――!!?」
人生で何度あるか知れない衝撃を受けた。
誰だ。
誰だ、これは。
なぜ。
嘘だ。
紅の髪。
血のように紅い髪。
翡翠の瞳。
鋭い視線。
焦がれて。
抑えて、欲して、拒絶されて。
記憶よりいくつか若い姿。
見間違えであって欲しかったが…生憎だな。間違えるはずがない。
今、一番、会いたい人間だ。
指命手配書にの写真。
彼女にずば抜けて高い賞金が賭けられ、彼女を狙う賞金稼ぎはゆうに300人を越えていた。