第7章 哀傷…
「智子、僕だよ? 入ってもいいかい?」
扉の外から声をかけ、何度か軽く叩いてみる。
でも中からの返事はなく…
まだ寝ているのだろうか…
僕はそう思いながら、取手に手をかけ、ゆっくりと捻った。
「智子、入るよ?」
そっと扉を開け、部屋の中を覗く。
カーテンを閉め切った部屋は、とても薄暗く、それでも僅かに空いた隙間から差し込む日差しが、ベットの上で天使のような顔で眠る智子を照らしていた。
僕は手に持っていたお盆をテーブルの上に静かに置くと、そっとベットに歩み寄り、その穏やかな寝息を立てる頬に指の先で触れた。
「ん…」
智子が微かに身じろぎをして、長い睫毛がぴくりと動いた。
「智子、朝だよ? もう起きないと…」
耳元に唇を寄せ、囁くように言う。
すると智子が擽ったそうに肩を竦め、閉じた瞼をゆっくり開き、
「もぉ…、兄さまったら…、擽ったいわ…」
まだ眠さの残る甘い声で僕に苦情を言うと、そのふっくらとした頬を更に膨らませ、一度は開いた瞼を再び閉じてしまった。
「せっかく起きたのに、また眠ってしまうのかい?」
僕はなるべくベットを揺らさないよう、そっとその端に腰をかけると、頬にかかった智子の巻き髪を指で梳いた。
そして、智子の髪から漂う甘い香りを胸いっぱいに吸い込むと、僕は何かに引き寄せられるように、その頬に唇を落とした。