第2章 初恋…
やがて僕は高等学校に進学し、幼かった智子は13歳になっていた。
その頃になると、それまで智子に辛く当たってきた母様の智子に対する態度が、まるで手のひらを返したように一変した。
嫁入り道具なのか…、大切にしてきた着物を智子に着せつけては、手入れの行き届いた広い庭を、二人寄り添って散策する姿が、幾度となく見られた。
そんな二人の姿を、僕は勿論、使用人達も微笑ましく見ていた。
そんの或る日、父様が一人の青年を屋敷に呼び寄せた。
スラッと背も高く、およそ東洋人には見られない容姿のその青年は、屋敷から出ることを許されない智子のために、父様が家庭教師として招いた男だった。
僕は内心、智子の勉強なら僕が…、そう思ったが、それを口にすることはしなかった。
父様に逆らうことなど、許されることではなかったから…
青年の名は“松本潤”。
卒業を間近に控えた大学生だ、と父様は言った。
大学にまで通うくらいだから、相当優秀なのだろうとは思ったが、初めて会った時から僕はこの男が、何故だか好きになれなかった。
智子を見る目が、他とは違う…そう感じたからだ。
「君が智子さんかい? 俺は松本潤だ。宜しく頼むよ」
そう言って差し出した潤の手を、純粋な智子は何の疑いもなく握った。
その瞬間、胸の奥底に、小さな炎が燻るのを、僕は感じていた。