第13章 特別編「偏愛…」
似てる、と…
智翔の憎悪に満ちた目が、僕にある人を思い出させた。
この目はそうだ…
母様が智子を見る目に似てるんだ。
当然か…
僕は勿論のこと、父親こそ違うが智子も母様が腹を痛めて産んだ子に違いないわけだから、その僕と智子の間に出来たか子供が、母様の血を濃く引き継いでいないわけがない。
「さ、智翔…。でもさっき腹の子は…」
僕の記憶違いで無ければ、智翔は子供が産まれなくて良かった、と…そう言った筈だ。
自分のような子が産まれなくて済んだ、と…
なのにどうして…
「ええ、確かに産まれて来なくて良かったと言ったわ。こうなって良かったとも…。でもね、父様?」
胸元に垂らした編んだ長い髪を揺らし、智翔がゆらゆらとしながら寝台の上に身を起こす。
「私知ってしまったの…。お母さんが潤先生を説得してでも私に教えたかった女性としての幸せを…、私は妊娠を告げられた時に知ってしまったの…」
小刻みに震える手で腹を撫でる智翔の目から、大粒の涙が一つ二つと布団の上に落ちた。
「人殺し…」
「え…?」
「私の赤ちゃんを返して…」
智…翔…?
「ねぇ、私の赤ちゃんを返してよ…。それが出来ないのなら、今すぐこの部屋から出て行って!」
初めてだった。
これ程までに智翔に拒絶されたのは、智翔が生まれてから初めてのことだった。