第13章 特別編「偏愛…」
僕がこの世で最も愛した人が…
智子がこの世を去った。
流行り風邪を拗らせた結果、肺を患い、闘病の末の事だった。
元々、二形はその体質上身体も弱く、長くは生きられないだろうと母様にも、それから智子の治療にあたっていた医師で、その昔は智子の許婚でもあった潤からも聞かされていた。
それでも長く生きたほうだと…
だから潤から危篤を告げられた時も、さほど慌てることもしなかったし、動揺することだって無かった。
僕は一切取り乱すことなく、智子の最期を看取り、そして目の前の現実を受け入れた。
いつかは天が僕達を分つだろうということは分かっていたから、その時期が少し早まっただけだ、と…
覚悟はしていた筈だった。
なのにいざ骨だけになった智子を腕に抱いた瞬間、僕は恥ずかしげもなくその場に泣き崩れた。
愛していた…、心から…
出来ることならこの先もずっと一緒にいたかった。
小鳥が囀りのような声を聞いていたかったし、幾つ歳を重ねても変わることのない無垢な笑顔を見ていたかった。
でももうそれも叶わないのだと思うと、そこはかとない虚無感が胸に募って来て…
智子を見送ってから暫くの間、僕はまるで抜け殻のようになっていた。