第1章 義妹…
それは、そろそろ季節も春を迎えようとしている頃だった。
季節外れの雪が朝から振り続き、いつしか窓の外を白く染めていた。
父様の帰りが遅いのは常であったから、早々に夕食を済ませた僕と母様は、一向に温まらない部屋の暖炉に薪をくべつつ暖をとっていた。
「何を編んでいるの?」
僕が聞くと、母様は少しだけ目尻を下げて、
「あなたのセーターよ」
と言って、赤い毛糸玉を僕に見せた。
「へぇ、楽しみだな」
僕はそう言って、笑顔の仮面を顔に貼り付ける。
そのセーターに僕が袖を通すことは、恐らく…いや、確実にないから。
だって母様が編んでいるのは、どこからどう見ても幼い子が着る大きさで、中学生になった僕が着るには、小さ過ぎる。
「今夜は冷えるね?」
僕は赤いセーターを愛おしそうに編む母様を見ていたくなくて、窓の外に視線を向けた。
その時だった。
応接間の扉がノックされた。
「どうぞ」
母様が答えると、細かい細工の施された大きな扉がゆっくりと開き、家政婦の照が頭を下げた。
「旦那様がお戻りでございます」
そいえ言うと照は姿勢はそのままに、一歩後ずさる。
「そう、お出迎えしなくてはね?」
母様が毛糸玉を籠に仕舞い、ソファから腰を上げた。
その時、
「出迎えは必要ない」
父様の声が扉の向こうから聞こえた。