第11章 信愛…
智子との生活は、僕が想像していた以上に大変で…
二宮の手を借りはしたものの、父様に手を引かれて屋敷に来た時から、一度も外の世界を見ることなく育った智子にとっては、全てが物珍しく、また恐怖でもあった。
我儘を言っては僕を困らせることだって、一度や二度じゃない。
その度に僕は智子をきつく叱ったりもした。
それでも、狭く薄暗い部屋で過ごす時間は、それまで自由に愛を語らうことすら許されなかった僕達にとっては、至上の幸せでもあった。
僕達は心の赴くまま、身体が求めるまま、互いを求め合い、抱き合った。
きっとそうしていないと、不安で不安で堪らなかったんだと思う。
住む家も、財産も、そして無償の愛で僕達を守ってくれた母様も…、全てを失くした僕達には、そうすることでしか互いの居場所すら見つけることは出来なかった。
智子がいれば、僕はそれだけで幸せだった。
智子が隣で笑っていてくれれば、僕はそれだけで何もいらなかった。
そうして何ヶ月か過ぎると、智子の腹も益々膨れ上がり、元々小柄な智子は動くことすら億劫に感じるようになった。
「もう直だねぇ」
身重の智子を案じてか、二宮の母親は度々下宿を訪れては、智子の面倒を見てくれた。
「赤ちゃん、もうすぐ来るの?」
「ああ、そうだよ?」
「とっても痛いんでしょ? 智子、不安だわ…。おばさま、智子と一緒にいて下さる?」
智子は僕には言えない不安を、二宮の母親には何の躊躇もなく打ち明けた。
「なあに、怖がることはないさ。何たって、お母さんは強いんだから」
智子にとっては、二宮の母親が、母様の代わりだったのかもしれない。
二宮の母親もまた、智子を本当の娘のように可愛がってくれた。