第10章 傀儡…
下で構える潤の腕に智子が無事抱きかかえられるのを確認してから、僕は手摺から身を乗り出した。
「翔君、さあ!」
智子を安全な場所に下ろし、潤が僕に向かって両手を広げる。
「兄さま、早く…!」
「分かった、今行く…!」
片手を上げ、足を手摺りにかけた、その時だった。
僕の背後で何かが崩れるような音がした。
急がないと…
屋敷を焼き尽くす勢いで広がる炎は、もうすぐそこまで来ている…
僕は後ろを気にしながらも、手摺りを乗り越え、息を大きく吸い込んだ。
怖くない、大丈夫だ…。
きっと潤が受け止めてくれる。
覚悟を決め、飛び降りるばかりの格好になっていた僕は、突然背中を押した爆風に、書斎を埋め尽くしていた智子に似た人形諸共、吹き飛ばされてしまった。
「翔っ…!」
「兄さま、いやーーーっ!」
宙を舞い、地面に叩き付けられる瞬間、僕は朦朧とする意識の中で、切羽詰まったような潤声と、そして智子の叫び声を聞いたような気がした。
ああ…、そうか…
これは神様が僕にお与えになった罰なんだ…
血の繋がった妹を…智子を愛してしまった僕に…
父様と母様を、結果的に死に追いやったことへの…
罰なんだ…
智子、ごめんよ…
一人ぼっちにしてしまって、ごめんよ…
智子、君を愛してる…
「傀儡…」〜完〜