第10章 傀儡…
潤からの電報を受け取った僕は、取るものもとりあえず下宿を飛び出した。
途中二宮の家に立ち寄ろうかとも思ったけど、その僅かな時間すら惜しむように、僕は屋敷までの道程を一目散に駆けた。
どうか…
どうか無事でいてくれ…
何度も心の中で叫びながら…
そうして漸く屋敷が見えてきた頃、こちらに向かって走って来る長身の人影が視界に飛び込んで来た。
あれは…潤…?
僕一旦足を止めると、乱れた息を整えるように深呼吸を繰り返し、額の汗を拭った。
「翔君…かい?」
月明かりのせいか、石膏のような顔が青白く見える。
「潤先生…一体何があったって言うんです…?」
「それが…。話は後だ、とりあえず中へ…。義母上もお待ちだ」
母様が…?
僕を…?
僕は不安を抑えられないまま、潤の後に続いて屋敷の中に足を踏み入れた。
すると僕の到着を待ち兼ねていたのか、母様が着物の裾が肌蹴るのも構わず階段を駆け下りて来た。
「母様、一体何が…? 智子は…? 智子はどこです? 無事なんですよね?」
「落ち着くんだ、翔君」
母様の顔を見た途端に取り乱した僕の肩を、宥めるように潤の手が掴んだ。
それでも僕は潤の手を払うと、鼻息を荒くして母様と潤を交互に見た。