第9章 惑乱…
下宿での生活も三月も過ぎれば、たまに外に出てもここに帰って来るのが当たり前になってくるのだから、不思議なもんだ。
そして、会うことも、一目姿をみることも叶わない智子に思いを馳せることも…
智子は今何をしているだろうか…
また一人泣いてはいないだろうか…
智子のことを思うだけで一日があっという間に過ぎて行くこともあった。
そんな中、僕の元に智子の婚礼の日取りの知らせが届いた。
とは言っても、僕がここにいることを知っているのは、二宮は別としても、母様と潤だけ…
当然だが、手紙が届くことも、電報が届くこともなかった。
知らせて来たのは、母様のお使いを理由に町に買い物に出た照だった。
母様は照を使って、僕に生活が出来るだけの金を届けさせた。
その時、照がうっかり口を滑らせたのだ。
僕の智子がとうとうお嫁に行ってしまう…
僕だけの智子ではなくなってしまう…
僕はいても立ってもいられず、照を押し退け部屋を飛び出した。
でもその足は通りの角を曲がった所でぴたりと止まってしまった。
僕といて、智子は本当に幸せになれるのだろうか…
潤となら智子は…
智子にとってそれが一番の幸せならば…
僕が身を引くのが、最良の判断だと…
その時は思っていた。
数日後、潤が僕の元を訪ねて来るまでは…