第8章 慕情…
「全く君という子は…恐れ入ったよ。俺はね、最初から気付いていたよ、君達が互いに想い合っていることをね…」
「じゃあ何故智子と婚約なんて…」
例え結婚したとしても、智子の心が潤の物になるとは限らないのに…
それを分かっていながらどうして…
「どうしてなんだろうな…。俺にも分からないよ」
フッと息を吐き出すと、潤は目尻りを僅かに下げ、困ったように笑った。
「それはそうと…。君は智子さんと、その…」
潤にしては珍しく、その先の言葉を言い淀む。
僕はその様子から、潤が何を言いたいのか察すると、それまで全身に張り詰めていた緊張を解いた。
「ええ…、智子と情を交わしました。でもそれが何か…?」
わざわざ僕の口から聞き出さなくとも、母様から事の顛末は聞かされているだろうに…
「ならば、君は智子さんの身体の秘密を…?」
一瞬、恥じらうように小さな身を丸めた智子の姿が脳裏に浮かび、僕はそれを打ち消すかのように頭を振った。
「その様子だと、君も相当驚いたようだね」
君…も…?
潤は知っていたのか?
智子の身体に、紛うことなき男性の象徴が着いていることを…
「そうか…。やはり俺の聞き違いではなかったんだね…」
潤は一瞬天を仰ぐと、少し身を乗りだした。