第8章 慕情…
恐る恐る扉を開く。
もしかしたら、僕の行方を探して、父様が人を寄越したのかもしれない…
そう思ったら、自然と取っ手を握る手が震えた。
開けようか、開けまいか…
躊躇っていると、再び扉が叩かれ、
「翔くん、いるんだろ? 開けてくれないか?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
どうして…ここが…?
僕は扉をそっと開け、僅かな隙間から外を覗いた。
「一人…ですか?」
「俺一人だから安心しろ」
言われて漸く僕は間にある扉を開け放った。
「少し痩せたようだが…元気そうで何よりだ」
その人は僕の脇をするりと通り抜けると、着ていた外套を脱ぎ、壁際に積まれた布団の上に畳んで置いた。
「あ、あの…、どうしてここが?」
「君の事だから、ここに身を潜めているだろうと、義母上に頼まれてね…」
母様が…?
「どうした、そんな鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をして…」
「まさかあなたがここに来ると思っていなくて…」
婚約者であるあなたから智子を奪った僕の元を、まさか潤が尋ねてくるなんて…
それがたとえ母様の言いつけだったとしても、僕には予想外のことで…
「そんなに意外だったかい?」
「ええ、とても…」
ほんの僅かな不安と、驚きを隠せないまま、僕は潤に座布団を薦めた。