第32章 白薔薇※三日月宗近夢
三日月は、桜に様々な話をする。
過去の偉人たちの歴史や、彼女が行ったことのない場所の話。
桜は瞳を輝かせながら、三日月の話を聞き入っていた
いくつか話をしたところで、三日月は何かの気配に気付く。
空気が突然変わったような、何か。
この時代に干渉し過ぎたのだろう。
これ以上、ここに長居は出来ない。
「……さて、名残惜しいが。そろそろ行かねばならない」
「そう、ですか」
三日月は淋しそうな顔をする桜に手を伸ばし、少女の腰を引き寄せた。
「桜、おぬしがもう少し大人になった時、俺はおぬしを迎えに来る」
「迎えに?」
桜は三日月の言った意味がわからず、首を傾げた。
ひらりと、彼女の髪についていた花弁が落ちる。
三日月は桜の頬に手を添えると、優しく微笑んだ。
「俺とずっと一緒にいる、そういうことだ」
「ずっと私と一緒にいてくれるのですか!」
桜は花が綻んだような笑顔で三日月を見つめた。
その表情が心の底から嬉しそうだったから、三日月もつられて笑顔になる。
三日月は桜を抱き締めた。
「桜、約束だぞ」
桜の桜色の唇に、三日月の唇がそっと触れる。
驚いて目を真ん丸に見開いた桜の瞳には、三日月の輝く金色の光がとても、とても美しく映り込んでいた。
桜も三日月を抱き締める。
その直後、桜は瞳を閉じ、ことんと眠りにつく。
「今はまだ……何も知らず、安心して眠っていてくれ」
眠りについた桜に、三日月はそっと上掛けをかけてやる。
あどけない表情で眠る桜が愛おしく、三日月は再び彼女に口付けた。
「今度こそ、俺にとって正しい歴史を……」
今はまだ、幼すぎるから。
そう遠くない未来、彼女は審神者になる。
審神者として戦って、戦った先には。
そうなる前に。
彼女を奪いにくる。
「約束だ、桜」
三日月が桜と再び顔を合わせるのは、彼女が女性として花開いた年齢になった日のことだった。
終